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(保管庫) 草食伝・・日本狼の復活かも・・違うかも・・・

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《第6話》 【トム戦】

《第6話》 【トム戦】

 グループレッスン。
講師はトムという20代前半のアメリカ人。

 日本人が順番に自己紹介した。
俺が名前をいうと、トムが急ににらんできた。
やはり、俺の名前は、アメリカ人の間で知られてきてるな。
それならそれでいいや。かえって、やりやすい。

初対面の外国人との会話の基本形。
「どこの国から来ましたか?」
トムは、怖い顔をして
「おまえには、おしえない」

そんなこといったら、かえってアメリカ人だってばれちゃうぞ。
ほかの、日本人生徒に耳打ちするようにアメリカから来たと話している。
聞こえてるよ。

日本人のひとりが心配そうに、俺に聞いている。
「どうしたんですか、なにかあったんですか?」
なにもないよね。初対面だもん。
「なにもないよ。これから、あるんだ。」

神戸にいる外国人は、日本語を話せない人が多い。港町・国際都市だから、平気なんだろうけども。
トムが、怖い顔をして、俺に聞く。
「なにを話したんだ?」
「ゴングがなったら、はじまりだと言ったんだ。・・・カーン!」

トムが慌てて立ち上がった。早口の英語でまくし立てている。なにを言っているのか、さっぱりわからない。
「すわれよ」
「NO」
興奮しきっちゃてるね。
「日本では、社長が座って話し、平社員は立って聞くんだ。アメリカではどうだ?」
と言って、わざと、ふんぞりかえって見せた。
トムは、あわてて座った。そして、ゆっくりとした、わかりやすい英語で、話し出した。
目は俺をにらんだままだが。

「おまえは、ここにいるアメリカ人10人以上を敵にまわしたんだぞ。」
「10人か。少ないな。アメリカには2億人以上いるだろう。全部日本に呼べ」
「そんなことは不可能だ」
「じゃ、俺がアメリカへ行こうか」
「おまえなんか、来るなー!」

トムは、荒い息遣いで興奮している。
おびえているようにも見える。
なんで俺ごときに。

それにしても、一般人でアメリカに来るなと言われた日本人がいるんだろうか。
自分が特別な人に見られているようで、名誉に思った。
あくまで、悪い意味でだけど、一目置かれていることにかわりはない。

「来るな」と言われて、「行く」とも「行かない」とも言えず、黙っていた。

トムが続けた。
「なぜ、真珠湾を攻撃するんだ?」

それが、ひっかかっているのか。
「わかった。ハワイはやめる。日系人もいっぱいいるしな。ハワイはやめて、ロサンゼルスを奇襲するよ」
「なぜ、ロサンゼルスを攻撃するんだ?」
「だって、ニューヨークは、東海岸だから、日本から遠いだろ。ロサンゼルスでいいじゃないか」
「だめだ!だめだ! ロサンゼルスもニューヨークもアメリカだ!」
そりゃわかってるよ。

「わかった。ロサンゼルスもニューヨークも攻撃しない・・・」
「本当か?」
満面の笑みである。
「そのかわり、アラスカを日本にくれ」
トムの表情がサッと変わった。
「だめだ!やれない。アラスカは、アメリカだ」
それもわかってるよ。

「アラスカは石油がでるだろ。日本は石油がほしい。もともと、アラスカはロシアから安く買ったんだろ。今度は、日本に売ってくれよ。日本は金持ってるぞ」
「だめだ!売れない!アラスカはアメリカだ!」
「なんで、おまえが決めるんだ。おまえは、大統領か?」
「俺は、大統領じゃない!」
わかってるよ。

「うーん、じゃ、日本の北海道とアラスカを交換しよう。北海道はいいぞ。ロシアに近いから」
「だめだ!北海道は日本だ!」

そりゃそーだよ。だから、交換しようって・・・。まっいいか。
俺は、けっこうアメリカを知っていて、からめてでつっついているつもりだが、帰ってくる答えは、かなり単純だ。

だが、これが、逆の立場だったら、どうだろうか。
ほとんど冗談のつもりとはいえ、日本の若者が自分の国を守るため、ここまで必死になって抵抗するだろうか。

ボクシングのTKOだな。
「カーン!」
「なんだ?」

「ゲームセットだ。おまえの勝ちだ」

 


 


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